基本指針
京都市障害者就労支援基本指針について
この「京都市障害者就労支援基本指針」は,推進会議が就労支援のための方策を検討し,あるいは共同事業を実施する際のガイドラインとして,関係者の皆様の共通認識にしていただきたいものです。
なお,それぞれの基本指針に付した「支援の現状」と「支援の方向」については,基本指針の理解を助けるためのコメントであり,基本指針の考え方を定式化したり,解釈を限定したりするものではありません。
関係者の皆様にさらに論議を重ねていただき,豊かな認識を生み出していただくことを期待します。
京都市障害者就労支援推進会議
(事務局 京都市保健福祉局保健福祉部障害保健福祉課)
京都市障害者就労支援基本指針
基本指針1 すべての「働き方」を支援する。
支援の現状
障害のある方の「働き方」としては,企業等に雇用される一般就労,障害福祉施設の利用者としての福祉的就労,自営等の在宅就労等,さまざまな形があります。
一般就労については,近年各種の助成金制度をはじめとした制度整備が進んできていますが,それらを十分に活用して雇用促進につなげている企業等はまだまだ少ないのが現状です。
また,在宅就労についても,発注を促進する制度等があるものの,対象となるような在宅就労者が少なく,企業等の認知度も低いこともあり,十分に使われているとは言えません。
福祉的就労については,依然として工賃水準が低い状況にあります。また,行政機関から積極的に業務を発注することができる法整備がなされたものの,発注の顕著な向上はまだみられず,その効果が期待されるのはこれからという状況です。
また,一部の知識・関心がある者を除くと,「障害者就労支援」といえば,多くの場合,企業等への一般就労だけが想起されるのが現状であり,福祉的就労については,知られていても一般就労できない方の副次的な就労形態との認識が根強く,福祉的就労もまた生産やサービス活動に従事し,わずかとはいえ社会的・経済的価値を生むひとつの「働き方」であるという認識が低いのが実情です。ヨーロッパ諸国等には,「保護雇用」という概念がありますが,あくまで一般雇用のうちの一類型という位置付けであり,ひとつの「働き方」として認識されています(なお,日本には,「保護雇用」は存在しないというのが労働問題の関係者の定説のようです)。
福祉的就労は,障害者自立支援法のサービスが「訓練等給付」というように,制度上はあくまで「訓練」という位置付けですが,一方で就労継続A型のような雇用契約を締結する「訓練」という存在があり,保護雇用の考え方が反映したような,過渡的な状況にあるとも考えられます。
いずれにしても,それぞれの働き方に対する支援がこれまで以上に必要であるといえます。
支援の方向
障害のある方の「働き方」は,一般就労から福祉的就労まで多様ですが,社会に参加し,役割を果たし,評価され,報酬を得るという,働くプロセスを踏まえて,一人ひとりの働きがい・生きがいという点に着目すれば,当事者にとって「働くかたち」の違いよりも「働く意義」の共通点がより基本的なことがらであることが理解できます。
このような意味で就労支援を捉えれば,一般就労も福祉的就労も,いずれの「働き方」も支援するというのが「障害者就労支援」の基本となります。
もちろん,支援の内容は異なりますし,「福祉から雇用へ」の流れを踏まえた一般就労と定着の支援をしっかりと行うという方向は見失ってはなりませんが,福祉的就労も含めた「働く障害者」全体を視野に入れた,それぞれの能力と適性に応じた「働き方」を見出していける環境が存在することが,一般就労へ移行する者の道筋についてもより確かなものとすることにつながると考えられます。
「福祉」から「雇用」へ移行した者が,さまざまな事情により「雇用」を継続しがたくなり,離職した後に「福祉」の場に戻るケースが多数見られること,その後再度「雇用」へチャレンジするケースもあるということを考慮すると,「福祉」の場と「雇用」の場が循環的に機能する途切れのない支援環境の整備が課題といえます。このような意味でも,一般就労と福祉的就労を総合的に捉えて,ともに支援の対象とすることが必要と考えられます。
京都市障害者就労支援推進会議は,このような理解に立って,一人ひとりがその意欲と能力と適性に応じた働き方ができるよう,一般就労から福祉的就労まで,すべての働き方を支援することを基本とします。
基本指針2 一人ひとりの「働く力」の向上を支援する。
支援の現状
希望がかなって一般就労することができても,働くことについての自覚が不十分等就労準備性が整っていなかったために,職場とミスマッチをおこして離職する場合があります。
また,職場定着に向けた適切な支援が十分に得られず,離職する場合も見られます。離職後の再チャレンジの仕組みも十分に確立しているとは言いがたく,いったん離職した場合に支援環境から孤立してしまうケースも見受けられます。また,「職場実習」の場が不足しているため,次のステップへ進めない方がいます。
福祉的就労の場においても,「就労継続」がふさわしい利用者が「就労移行」の利用者になっていたり,あるいはその逆であったり,本人の希望や適性にマッチした適切なサービスが提供されていないことがあります。
あるいは,支援者や保護者が一般就労など不可能と本人の能力を限定的に捉え,可能性をふさいでしまっているケースも見受けられます。
「働く力」を適切に把握し,さらにその向上を図ることを欲しているにもかかわらず,不十分な状況にある福祉的就労の場の利用者が多数います。
支援の方向
一人ひとりの適性や働くための能力を引き出し,それを伸ばすことにより,就労に必要な自覚とスキルを身に付け,「働き方」や働く環境が変わっても十分に力を発揮できるよう「働く力」の向上を図っていくことが大切です。
ここでいう「働く力」とは,一人ひとりが適切な支援の下に自己の職業能力を開発することから,必要なときに必要な社会資源や必要な支援を活用する力の獲得まで幅広い内容を指していますが,それぞれの障害特性や適性を踏まえた適切な能力開発が何よりも必要です。
京都市障害者就労支援推進会議は,関係者が連携して,一人ひとりが適切な支援の下に自己の職業能力を開発することができるよう支援環境を整えます。
基本指針3 ライフステージを通じて継続的に支援する。
基本指針4 関係機関等が協働して,多角的に支援する。
支援の現状
終身雇用制度が崩壊し,非正規労働が拡大している現在,一般の勤労者のライフコースにおいて,就職,転職,失業,再就職ということがごく一般的な出来事であるのと同様に,障害者のライフコースにおいても,働くことに伴う様々変化は必然です。
また,一般の勤労者にあっても就労のための支援が求められる現状では,働くことに支援を要する障害のある方の場合は,支援が途切れるあるいは存在しないことは決定的な不利益をもたらす結果に陥りやすいといえます。
しかし,総合支援学校卒業時の進路選択における支援,福祉施設から一般就労へ移行する(あるいはその逆の)際の支援,在宅から一般就労又は福祉的就労に移行する際の支援が,それぞれ教育,福祉,労働の各関係機関において他との連携が薄いまま行われており,障害のある方のライフステージに沿って見た場合,支援の継続性が担保されていない状況が見られます。
そのため,一人ひとりにとっての就労の経験が「働く力」の向上にもつながらない,さらには勤労意欲の減退を招くことにもなってしまいます。そして,当事者,保護者や家族,企業関係者等をみても,障害者自立支援法に基づく就労系事業所の制度等を十分に理解していない,あるいは支援者である施設の職員が,障害者雇用に関する助成金等の制度や企業の情報等に不案内な場合があるなど,支援機関相互の情報提供や情報共有に欠ける状況も多分に見受けられます。
また,就労支援の制度等の充実が図られつつある中で,どこに相談すれば良いか分からず,適切な支援を受けていない,あるいは相談を受けた窓口機関が他の適当な機関にうまくつなぐことができていない等の,支援の途切れも見受けられます。
支援の方向
人生の節目節目で「働き方」や働く場所・環境が変わっても,関係機関の連携により途切れのない支援体制をつくり,生涯にわたる継続的就労を可能とする継続的支援を行えるようにしていくことが重要です。
その際,就労に関して起こりうる様々な問題に関して,障害のある方が適切な分野の支援を受けることが可能となるよう,関係機関がそれぞれの役割を十分に発揮し,支援の効果が上がるよう連携・協働する仕組みを構築し,連携の円滑化のために支援ルールの共通化を図る等の支援環境の整備を進めることが必要です。
また,福祉,教育,労働等の各分野の視点から多角的・総合的に関わることで隠れている問題や新たな支援課題を発見・共有し,解決の方策を探ることができるようにしていくが大切です。
働く意欲のある障害のある方を孤立させないためには,支援する側も孤立することなく連携・協働することにより社会的支援のネットワークを構築し,これを活用することが重要です。
京都市障害者就労支援推進会議は,このような支援を可能にする協働機構として取組みを進めます。