京都手をつなぐ育成会 理事 岩井光男さん
《子供の自立は親の自立?》
岩井光男
「行ってきまーす」大きな声で今日も元気に自転車に乗って作業所に出かけてくれます。
帰ってくれば笑顔で袋入れやシール貼りをいかに頑張り,職場で頼りにされているか(自己満足ではあるが)報告してくれます。
10年前までは強い自閉症と対人恐怖症で,どの福祉施設でもパニックを起こし,やむなく在宅でずっと妻の献身的?な庇護の下,出口の見えない暗い暗いトンネンル内をさまよっていました。 ところが京都へ帰ってきて現在の作業所に通い始めてからは「仕事の喜び」「役に立っていることの自信」「お金を稼ぐ楽しみ」を少しずつ理解するようになり,今や在宅時代がうそのような明るい娘を見ることができるようになりました。
近所の方々や学童見守り隊の方々にもきっちりと挨拶ができるようになり,うつむき加減で心配そうな姿勢が,今やまっすぐ前を見据えるしぐさに,ちょっぴりと自信の片鱗を感じさせてくれます。まさに指導員の的確な障害特性の把握と自信を持たせる献身的な対応のお陰です。
このような娘の成長を見ていると,一番解っているつもりの娘の資質や才能について,一番解っていないのが親であることを身をもって知ることができました。
働きたい,もっと稼ぎたいという娘の思いや,挑戦する意欲,成長を抑えてきたのは,正に親の保守的な思い込みであり,親のエゴであったのではと反省させられています。
今,障害者の就労支援が行政,企業,福祉団体,三位一体となった取り組みが進められています。その過程にあって,大きな障害となるのが,親の独りよがりな思い込みにあるのではと,自分の経験から考えてしまいます。
「就労に失敗したときの親の苦労は二度と味わいたくない」「子供が楽しく作業所にかよってくれれば充分」「給料より安心が第一」「子供のことは親が一番良く知っている」等など。このような不安を取り除き,無理なくストレスや過重な負担を強いることなく,本人が挑戦する意欲がもてるような就労支援の仕組みづくりをすることが大切と思っています。私どもの福祉工房では,一般企業でのグループでの職場実習や、企業の工場内での授産など指導員とともに働ける職場作りを心がけて,少しでも働く意欲のある子供たちの就労のための支援策を親と子と指導員が一体となって作っています。
作業所の指導員による娘の育成計画によれば,料理やケーキつくりなどの趣味を生かした職場実習訓練に挑戦してみてはとのこと。行くところがなく在宅で悶々としていた娘のこれからの明るい将来のために,親子ともども自立に向けて発進です。